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眠りについて知ろう

天高く馬肥ゆる秋と睡眠

 「天高く馬肥ゆる秋」と古来より言い習わされてきています。秋は、新米の収穫の時期、新栗やサツマイモも収穫の時期を迎えます。美味しい食べ物がふんだんに出回るので、ついつい食べ過ぎてしまうのでしょうか。確かに、そのような側面もあるかも知れません。日本を住処とする野生動物は、秋にしっかりと食べて脂肪をつけ、食物の少なくなる冬を乗り切るものが大部分です。一方で、睡眠は食と密接に結びついています。季節性の影響と睡眠の影響との関係から、その理由について少し考えてみましょう。

 コラム「春は最適の睡眠環」でも睡眠の季節性について触れておきました。睡眠時間は服に長く夏には短いという季節性変動がみられます。また、人間の脳の機能の一部にも季節性の変化が見られることは、古くから知られていました。近年、感情障害のうちでその発症に季節特異性を示す疾患の存在することが注目され、季節性感情障害(Seasonal Affective Disorders : SAD)と呼ばれています(Rosenthal N Eら, 1987)。SADには冬型と夏型があり、冬型の臨床特徴としては、秋から冬に睡眠時間が長くなり、食欲が亢進し、特に糖分や炭水化物に対する嗜好性が増大し、体重が増加します。また、抑うつ感が強く、人付き合いが極端に減少し、体を動かすのもおっくうで、仕事、家事、学業に支障をきたすなどの特徴を持っています。この冬型SADに良く似た行動や感情の季節変化が、一般人においても認められます(白川ら, 1993)。季節による日照時間と気候の変化が睡眠・活動レベルや気分、感情にどのような影響を及ぼしているかを調べてみると、札幌、秋田では冬期に睡眠が長くなり体重が増加し、春期になると気分が向上する傾向が他の地域より強く観察されます。また、鹿児島では6月に気分の落ち込みが認められ梅雨の影響と考えられます。睡眠の長さは地域により有意差があり、寒冷地の住民は冬季に睡眠時間がより長くなる傾向を示しています。一方で、各地域とも季節変化に強く反応する集団(高季節性集団)が存在し、高緯度、寒冷地で冬の日照時間の少ない地域ほど多く、特に冬の日照時間が短く、平均気温が低い秋田は、この集団の発現率が最も高いことが判明しています。冬の日照時間は短いが平均気温が零度以下にならない鳥取では、秋田や札幌と比べその発現率は低いという特徴を持っています。日本の高季節性集団の出現率は、アメリカ東部北緯30度~50度の14.2~30%という前述のRosenthalらの報告を除くと、スイスの北緯45度の地域(Wirz-Justice A, 1989)やフィンランドの北緯60度の地域のほぼ13%と類似しています。これらのことは、睡眠や行動、感情の季節変化は人類において共通性の高い現象である可能性を示しています。さらに、この高季節性集団の男女比率は女性の方が高く、SAD患者の発症比率も女性に多いことが知られています。即ち、季節性変化に女性は強く反応し、それは生物学的特性に起因している可能性が高いと考えられます。

 このように、冬季の日照時間と気温が我々日本人の睡眠行動や気分、体重の季節性変化に大きな影響を与えています。睡眠の延長や気分の悪化は、行動量を減少させエネルギー消費を抑制します。糖分や炭水化物の嗜好性の上昇による初秋からの体重の増加は、冬をのりきるための脂肪の蓄積とも考えられ、冬眠の準備状態とよく類似しています。さらに、睡眠量や気分、体重の季節変動の幅が、冬季の日照時間の減少と気温の低下の程度により影響される点も冬眠と類似する現象です。「天高く馬肥ゆる秋」という現象は、睡眠の変化とも対応していて、私たち人間のように冬眠しないほ乳類でも、体内に潜在する冬眠遺伝子が影響しているのかもしれませんね。

 一方で、日本人の睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国中で最も短く(OECDレポート2018)、厚生労働省の平成29年の「国民健康・栄養調査」で、20歳以上の男性の36.1%、女性の42.1%が6時間未満の睡眠と報告されています。本来は7時間以上の睡眠を必要とします。スタンフォード大学医学部の疫学調査(2004年)で、睡眠時間が短いと食欲亢進ホルモンのグレリンの血中濃度が上昇し、食欲抑制ホルモンのレプチンの血中濃度が低下することが報告されています。睡眠時間を短縮すると、血中の食欲関連ホルモンの変化と同時に食欲と空腹感が増進することも報告されています(Spiegel K, 2004)。14~18歳のサウジアラビアの少女126名の睡眠時間と一日の摂取カロリー量を調べた研究で、睡眠時間が短いほど摂取カロリー量が多くなり、それも炭水化物、特に甘いものの摂取量が増えることが報告されています(Dara Al-Disi, 2010)。4割の日本人が6時間未満の睡眠しかとれていない現状では、食欲に関する季節性の変動に、短時間睡眠の圧力が加わっている可能性も考えられます。季節性変動は女性の方が大きく、睡眠時間が不足しているのも女性の方が多いのです。さらに、睡眠時間が不足すると甘いものへの欲求も増えることも判明しています。ダイエットを志す女性にとって「天高く馬肥ゆる秋」は大敵ですが、睡眠時間の不足は、さらに大敵なのです。

文章:睡眠評価研究機構代表 白川修一郎先生

日本睡眠学会 Japanise Society Of Sleep Research
JOBS 一般社団法人 日本睡眠改善協議会