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コンソーシアム活動紹介

日本生理人類学会 第52回大会要旨(東京2004年10月)
インターネットを用いた「眠り相談ソフト」の標準化と日本国民の睡眠の特徴
Standardized"Better Sleep Consultation Program" and
assessment of Japanese sleep:Internet-based questionnaire survey

北堂真子*1,塀内隆博*1,山品善嗣*2,冨田太*3,位田毅彦*4,岩田有史*5
安達直美*6,石井九美雄*7,白川修一郎*8
Masako KITADOU*1, Takahiro HEIUCHI*1, Yoshitsugu YAMASHINA*2, Futoshi TODA*3, Takehiko INDEN*4, Arichika IWATA*5, Naomi ADACHI*6, Kumio ISHII*7, Shuichiro SHIRAKAWA*8

1. はじめに

「眠り相談ソフト」は,インターネットWEBサイト上の質問群に回答することで,対象者に自己の睡眠状態を認知させ,状態が悪化していれば,その科学的改善策をテーラメイドに提示することを目的として,国立精神・神経センターと松下電工(株)とで共同開発されたプログラムである.「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目群は,国立精神・神経センターで開発され標準化された睡眠健康得点1)の質問項目に準じ構造化され,WEBサイト上で回答しやすいように質問と回答の文章をユーザフレンドリなものに改変し作成されている.本プログラムは,快眠コンソーシアムが2003年12月より公開し,使用・公開許可の得られたデータが多量に蓄積されている.本研究では,「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目の標準化手続きを行い,日本全国27,000名以上の幅広い年齢層男女より得られたデータより,現代日本のインターネットユーザの睡眠状態および睡眠習慣の特徴について報告する.

2. 方法

1). 「眠り相談ソフト」の睡眠内省質問項目構成
対象者属性,寝室状況,睡眠内省,睡眠習慣の質問群より構成されている.睡眠内省,睡眠習慣については,睡眠状態説明と改善対策提示の効率性より,寝つき,睡眠の質,寝起き,日中のスッキリ性,睡眠の正常性,睡眠習慣の6要因に構造化され,29質問項目で構成されている.さらに,睡眠障害のなかでも発生頻度の高い睡眠呼吸障害,むずむず脚症候群をスクリーニングし除外するために2質問項目が追加されている.各質問項目は,3肢~6肢選択方式で,最終的に単極3件法と4件法に集約されている.
 本研究では,3件法,4件法の項目はすべて各反応分布に基づいて重みづけ操作を行った.日本において標準化された睡眠感評価尺度(小栗ら,1985;山本ら,1998)はLikertのシグマ値法を用いて開発されていることから,本研究においても尺度の等価性を重んじてLikertのシグマ値法を採用した.本研究における質問項目は単極性のものとして構成されており,項目内容の方向性も考慮して,睡眠悪化を示す最下値の反応カテゴリ得点がゼロとなるように各カテゴリの重みを求めた.

2). 対象者
 インターネットWEBサイト上の「眠り相談ソフト」にアクセスし,対象者属性,寝室状況,睡眠状態認知に係わる質問項目群の全データの使用・公開許可の得られた対象者のデータを用いた.なお,「眠り相談ソフト」の対象者属性には,姓名(含イニシャル),住所等の個人を特定可能な情報は含まれていない.「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目群の標準化手続きには,幅広い年齢層に対応可能なように1歳~88歳までの男性14,051名,女性11,943名,計25,994名の全データを使用した.また,睡眠状態の特徴等の解析では,15歳以下の者のデータは責任能力の問題もあり除外し,80歳以上の物のデータは極少数であったので除外した.解析対象者は16~79歳までの男性13,640名,女性11,515名,計25,155名であった.なお,インターネット上のアンケートの特徴として,20代,30代が全対象者の73%を占めていた.

3. 結果

1). 「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目の標準化
29項目より構成される「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目群の標準化手続きを行った.各質問項目のカテゴリに対する全対象者の反応頻度よりLikertのシグマ値法を用いて心理尺度値を算出し,対象者ごとに各項目の尺度値を付与した.項目の弁別力を統計的に検定するため,対象者ごとに全項目の累計得点を算出し,上位得点者25%,下位得点者25%を抽出した.G-P分析によりそれぞれの項目別の弁別力を検定した結果,全て統計学的に有意(p<0.0001)であり十分な弁別力を示した.
 Chronbachのα係数に基づき,「眠り相談ソフト」の睡眠状態認知に係わる質問項目群の信頼性係数を算出した.29項目全体のα係数は,0.830と高い値を示した.すなわち,本質問項目群を構成する項目内容は高い等質性をもつことが保証された.
 29質問項目につき因子分析(主成分分析,EQUAMAX回転)を行い6因子が抽出された.2質問項目を除き,すべて0.4以上の因子負荷量を示し,第1因子:覚醒時の眠気,第2因子:睡眠習慣,第3因子:睡眠の質,第4因子:睡眠時間,第5因子:睡眠の正常性,第6因子:睡眠の混入と名付けられた.0.3以上の因子不可量を示した質問項目は熟眠不全感で第3因子に組み込むこととした.因子負荷量が0.2以下の項目は,休日の30分以上の昼寝に関する項目であり,この項目は,第1因子:覚醒時の眠気,第2因子:睡眠習慣の両者にほぼ同等の負荷量を示していた.この項目を除外した場合の28項目でのChronbachのα係数は0.823と非除外の場合よりやや低値となり,説明要因,改善対策において科学的根拠を有する有用な質問項目と考えられるため,第2因子:睡眠習慣に繰り入れることとした.
 仮説的に質問項目群を構造化した説明要因の寝つき,睡眠の質は第3因子:睡眠の質の1因子に集約され,寝起き,日中のスッキリ性は第1因子:覚醒時の眠気と第6因子:睡眠の混入に再分類された.睡眠の正常性は第5因子:睡眠の正常性にすべての項目がまとまり,睡眠習慣は第2因子:睡眠習慣と第4因子:睡眠時間に分類された.
 因子分析の結果は変動の方向性が類似の項目に分類される.このことを考慮すれば,病態や生理学的根拠に基づいて仮説的に設定された説明要因の構成項目は,ほぼ因子分析の結果に類似しており,その変動に大きな差異は認められないものであった.

2). 年齢層,性差による睡眠状態の特徴
 29項目の総平均得点の年齢層,性別の特徴について検討した.年齢層は,16~19歳,20歳以降は5歳ごとに分類した.性差,年齢差および両者の交互作用が認められた.全般的に,若年者ほど睡眠状態は悪化しており,高齢者では女性の方が悪化していた.抽出された6因子の年齢層,性別の平均得点では,覚醒時の眠気は若年者ほど悪化し,全般的に女性の方が覚醒時の眠気は強かった.睡眠習慣は,若年者の方が悪く,若年男性の方が同年齢層の女性に比べ悪化していた.睡眠の質は,若年,更年期以降の女性で悪化しており,特に55歳以上の女性で顕著であった.睡眠時間に係わる睡眠習慣は,高齢女性で悪化していた.睡眠の正常性は,中高年男性で悪化していた.覚醒への睡眠の混入は,若年者で悪化しており,特に10代の女性で顕著であった.

4. 考察

 インターネットWEBサイト上に設置された「眠り相談ソフト」へのアクセスは,当初の予定よりはるかに多く,登録も8ヶ月で27,000名を超え,国民の睡眠健康に関する関心の高さを示している.
 「眠り相談ソフト」は,50年以上にわたる睡眠に関する科学的研究により蓄積された事実に基づき,科学的説明と改善法提示の利便性から寝つき,睡眠の質,寝起き,日中のスッキリ性,睡眠の正常性,睡眠習慣の6要因に構造化され,それぞれの要因で必要とされる質問項目が選定された.多数のデータを蓄積し,その反応に基づいて各質問項目の選択カテゴリを心理尺度化し得点を付与して標準化の手続きを行った結果,「眠り相談ソフト」を構成する睡眠状態認知に係わる29質問項目は,すべて有意な弁別力を有し,項目全体の等質性と信頼性は統計的に高く保証されるものであった.因子分析の結果,寝つきと睡眠の質は一因子に集約された.睡眠科学研究における最近の報告から,入眠と睡眠維持に相互の関係はみられるが明らかに異なるメカニズムが関与していると推定される.今回得られたデータに基づく因子分析の結果は,入眠の悪化と中途覚醒等の睡眠維持の障害に代表される睡眠の質の悪化が,相互に同じように変動することを示していた.このことは,現代日本人の場合,入眠困難を訴える者は睡眠維持も悪化している可能性が高く,両者を改善する方策を同時に提示することが望ましい場合の多いことを示していた.睡眠習慣の悪化は若年男性で顕著で,睡眠習慣に関する社会的教育を行う場合に有用な情報が得られていた.
 本研究で統計的に抽出された6因子は,当初構造化した6説明要因に再構築可能な質問項目構成であり,学術的な検討には抽出された6因子を用い,現場への応用にはユーザの理解の得られやすい6説明要因を用いることも可能であると考えられた.

引用文献

1) Tanaka H, Shirakawa S: Sleep health, lifestyle and mental health in the Japanese eilderly ensuring sleep to promote a healthy brain and mind. J Psychosomatic Research 56: 465-477, 2004.

*1 松下電工株式会社 電器R&Dセンター
*2 パラマウントベッド株式会社 インタイム営業部
*3 エスエス製薬株式会社 経営企画本部 広報室
*4 太陽化学株式会社 ACP
*5 株式会社イワタ
*6 ロフテー株式会社 快眠スタジオ
*7 グンゼ株式会社 マーケティング部
*8 国立精神・神経センター 精神保健研究所

≪連絡先≫ 北堂真子
〒571-8686  大阪府門真市大字門真1048
電話:06-6908-6732 FAX:06-6904-7154
E-mail:kitado@peg.mew.co.jp


(写真=日本生理人類学会 第52回大会一般口演の様子。発表者は北堂真子氏。2004年10月23日東京大学弥生講堂にて)

日本睡眠学会 Japanise Society Of Sleep Research
JOBS 一般社団法人 日本睡眠改善協議会